この『三つの物語』こそが、フローベール芸術の粋を集めた傑作である、と考える研究者や愛読者も少なくない。それは、各作品の完成度の高さもさることながら、そこにフローベールの長編作の小型版ともいえるエッセンスが凝縮されているからである。(解説より)
無学な召使いの人生を、寄り添うように描いた「素朴なひと」、城主の息子で、血に飢えた狩りの名手ジュリアンの数奇な運命を綴った「聖ジュリアン伝」、サロメの伝説を下敷きに、ユダヤの王宮で繰り広げられる騒動を描く「ヘロディアス」。透徹した文体からイメージが湧き立つような短篇集。
谷口亜沙子
ギュスターヴ・フローベール Gustave Flaubert |
---|
[ 1821 - 1880 ] フランスの小説家。ルーアンで外科医の息子として生まれる。大学でははじめ法律を学ぶが性に合わず、創作活動に向かう。1857年、4年半をかけて書き上げたデビュー作『ボヴァリー夫人』が、訴訟事件が起きたという宣伝効果もあってか大ベストセラーになり、作家としての地位を確立した。1869年に自伝的な作品『感情教育』を発表したが、売れ行きはともかく、世評は芳しくなかった。晩年は長編『ブヴァールとベキュシェ』に精力をつぎ込んだが、完成を見ずして1880年、自宅で死去。身近な題材を精緻に客観描写するフローベールの手法は、その後のゾラ、モーパッサンらに影響を与えた。他の作品に『サラムボー』『三つの物語』などがある。 |
[訳者] 谷口亜沙子 Taniguchi Asako |
---|
1977年生まれ。早稲田大学文学学術院博 士課程フランス文学専攻単位取得退学。パリ第7大学文学博士。博士論文の主題はミシェル・レリス。現在、明治大学文学部仏文科准教授。専門は「詩(ポエジー)」を中心とした近現代のフランス文学。著書に 『ジョゼフ・シマ 無音の光』(水声社)。訳書に『大いなる酒宴』(ドーマル)など。 |