自分の頭で考える。カントが「啓蒙とは何か」で繰り返し説くのは、その困難と重要性である。「永遠平和のために」では常備軍の廃止、国際連合の設立を唱える。「啓蒙とは何か」は、他人の意見をあたかも自分のもののように思いこむ弊害を指摘している。他の3編を含め、現在でもなお輝きを失わない、カントの現実的な問題意識に貫かれた論文集。
中山元は在野で活躍する哲学者にして翻訳家。難解な思想を平易かつ鮮やかな日本語に置き換える力には定評がある。その彼が世に問う、斬新な訳業。カントの著作には特有の難解な哲学用語があり、これまで読者を遠ざけてきた。新訳では〈悟性〉〈格率〉などの専門用語をいっさい使わずに翻訳している。この大胆な試みは哲学の翻訳では特筆すべき快挙。いま初めて、カントは、日本で読まれ始める。
内容啓蒙とはカントの定義によれば「自分の知性を使って、判断力のない未成年の状態から抜けでること」である。自らの知性を働かせて疑問を抱き、問題を解明し、これまで知らなかったことを知る「勇気を持つ」こと。このカントの主張は、いまも新鮮である。
イマヌエル・カント |
---|
[ 1724 - 1804 ] ドイツ(東プロイセン)の哲学者。近代に最も大きな影響を与えた人物の一人。『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』のいわゆる三批判書を発表し、批判哲学を提唱して、認識論における「コペルニクス的転回」を促した。フィヒテ、シェリング、ヘーゲルとつながるドイツ観念論の土台を築いた。 |
[訳者] 中山 元 Nakayama Gen |
---|
1949年生まれ。哲学者、翻訳家。主著に『思考のトポス』『フーコー入門』『はじめて読むフーコー』『思考の用語辞典』『賢者と羊飼い』『フーコー 生権力と統治性』『フーコー 思考の考古学』ほか。訳書に『自我論集』『エロス論集』『幻想の未来/文化への不満』『人はなぜ戦争をするのか』(以上、フロイト)、『パピエ・マシン(上・下)』(デリダ)、『永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編』『純粋理性批判』(カント)、『人間不平等起源論』『社会契約論/ジュネーヴ草稿』(共にルソー)、『職業としての政治 職業としての学問』『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(共にウェーバー)、『善悪の彼岸』『道徳の系譜学』(共にニーチェ)、『存在と時間』(ハイデガー)ほか多数。 |