若くして文学的成功を収めたトルストイは、50歳を過ぎて深い懐疑の中に沈んだ。その時代に書かれたこの2作品は、嫉妬による妻殺しや、孤独な死への恐怖など、現代にもつながるテーマを扱っている。人間社会への鋭い批判を小説に込めた作者の、ひとつの到達点。
官界における栄達を遂げた判事イワン・イリイチ。ある日、病によって初めて「自らの死」と直面する(イワン・イリイチの死)。美しい妻と音楽師との関係を疑ったボーズヌイシェフ公爵は、嫉妬の情念を燃やし、ついには妻をその手に……(クロイツェル・ソナタ)。トルストイの後期中編2作品。
レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ Л. Н. Толстой |
---|
[ 1828 - 1910 ] ロシアの小説家。19世紀を代表する作家の一人。無政府主義的な社会活動家の側面をもち、徹底した反権力的な思索と行動、反ヨーロッパ的な非暴力主義は、インドのガンジー、日本の白樺派などにも影響を及ぼしている。活動は文学・政治を超えた宗教の世界にも及び、1901年に受けたロシア正教会破門の措置は、今に至るまで取り消されていない。主著に『アンナ・カレーニナ』、『戦争と平和』、『復活』など。 |
[訳者] 望月哲男 Mochizuki Tetsuo |
---|
1951年生まれ。中央学院大学教授。北海道大学名誉教授。ロシア文化・文学専攻。著書に『「アンナ・カレーニナ」を読む』『ドストエフスキーカフェ-――現代ロシアの文学風景』、『ユーラシア地域大国の文化表象』、訳書に『白痴』『死の家の記録』(ドストエフスキー)、『アンナ・カレーニナ』『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』(トルストイ)、『ロマンⅠ、Ⅱ』(ソローキン)、『ドストエフスキーの詩学』(バフチン、共訳)、『自殺の文学史』(チハルチシヴィリ、共訳)、『アレクサンドルⅡ世暗殺』(ラジンスキー、共訳)、『青い脂』(ソローキン、共訳)など。『アンナ・カレーニナ』でロシア文学翻訳最優秀賞受賞。 |