SFであり、童話であり、ファンジーであり、寓話でもある。日本の詩人から「詩聖」と呼ばれたシュペルヴィエルの、幻想にあふれた物語は、不条理な世界で必死に生きるものたちを産み出した。その一篇一篇が読む者の感覚に響き、心にしみ込んでいく。
「海に住む少女」の大海原に浮かんでは消える町。「飼葉桶を囲む牛とロバ」では、イエス誕生に立ち合った牛の、美しい自己犠牲が語られる。不条理な世界のなかで必死に生きるものたちが生み出した、ユニークな短編の数々。時代が変わり、国が違っても、ひとの寂しさは変わらない。
上記作品の他に、独特な死後の世界を描いた「セーヌ河の名なしの娘」、人間の残忍さを哀しく見つめた「ラニ」、あまりにも有名な聖書の動物たちを主人公にした「ノアの箱船」、切なすぎる孤独を切り取った「牛乳のお椀」など、宝石のような全10篇を収録。
ジュール・シュペルヴィエル Jules Supervielle |
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[ 1884 - 1960 ] ウルグアイの首都、モンテヴィデオで生まれた。両親はフランス人。10歳のときにフランスに戻り、フランス語で書くことを選ぶ。2つの国に引き裂かれた人生から、独特の複眼的な視点による、幻想的な美しい作品を描いた。詩人、作家。詩集『重力』など。戦後日本の詩人たちに大きな影響を与え、現在に至るまで、コアなファンをもっている。 |
[訳者] 永田千奈 Nagata China |
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東京生まれ。翻訳家。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒。主な訳書に『海に住む少女』『ひとさらい』(シュペルヴィエル)、『女の一生』(モーパッサン)、『孤独な散歩者の夢想』(ルソー)、『クレーヴの奥方』 (ラファイエット夫人)、『椿姫』 (デュマ・フィス)、『ある父親』(シビル・ラカン)、『それでも私は腐敗と闘う』(イングリッド・ベタンクール)、『サーカスの犬』(リュドヴィック・ルーボディ)、『印象派のミューズ』(ドミニク・ボナ)などがある。 |