「これが、生きるってことだったのか? じゃ、もう一度!」。大胆で繊細。深く屈折しているがシンプル。ニーチェの代理人、ツァラトゥストラが、言葉を蒔きながら、旅をする。「ツァラトゥストラはこう言って、洞穴をあとにした。暗い山から出てきた朝日のように、光と熱と力がみなぎっていた」
『ツァラトゥストラ』が愛されてきたのは、人生論としてではないだろうか。神がいない世界で、人間はどうやって生きていくか。『ツァラトゥストラ』は、これからも、たぶんずっと、いろんなヒントをあたえてくれる「人生の応援歌」なのだ。(訳者)
『ツァラトゥストラ』は、キリスト教の道徳を激しく批判する。聖書のパロディのような本だから、からだについて魅力的なフレーズが山のようにある。ドイツ語のGeistには「精神」のほかに「幽霊」という意味もあり、ここではニーチェが駄洒落によって「精神」を笑っているのだろう。『ツァラトゥストラ』は、くそまじめな論文ではない。≪論文なんて、私は書かない≫というニーチェは、遊んでいるのだ。......
本や机にばかりしがみついていると、精神や魂のほうが、身体や肉体より偉いと勘違いするのかもしれない。これまでの『ツァラトゥストラ』の邦訳には、どうも「精神の聖書」のにおいがする。ツァラトゥストラは空気に敏感だ。高い山の、きれいな空気が好きだ。精神を否定するつもりはないけれど、「精神の聖書」の向こうを張って、『ツァラトゥストラ』を、「からだの聖書」と読むこともできるのではないか。
フリードリヒ・ニーチェ Friedrich Nietzsche |
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[ 1844 - 1900 ] ドイツの哲学者。プロイセンで、プロテスタントの牧師の家に生まれる。ボン大学神学部に入学するが、古典文献学研究に転向。25歳の若さでバーゼル大学から招聘され、翌年正教授に。ヴァーグナーに心酔し処女作『悲劇の誕生』を刊行したが、その後決裂。西洋哲学の伝統とキリスト教道徳、近代文明を激烈に批判、近代哲学の克服から現代哲学への扉を開いた。晩年は精神錯乱に陥り1900年、55歳で死去。主な著書は本書『善悪の彼岸』『道徳の系譜学』『悲劇の誕生』『ツァラトゥストラ』ほか。 |
[訳者] 丘沢静也 Okazawa Shizuya |
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1947年生まれ。ドイツ文学者。著書に『恋愛の授業』『下り坂では後ろ向きに』『マンネリズムのすすめ』『からだの教養』など。訳書に『ツァラトゥストラ』(ニーチェ)、『変身/掟の前で 他2編』『訴訟』(カフカ)、『論理哲学論考』(ヴィトゲンシュタイン)、『飛ぶ教室』(ケストナー)、『寄宿生テルレスの混乱』(ムージル)、『鏡のなかの鏡』(エンデ)、『数の悪魔』(エンツェンスベルガー)など。 |