アメリカ南北戦争に従軍したビアスは、戦場での凄惨な死を目の当たりにし、作家となってからも 死をよく取り上げた。だが、彼の小説では死は終わりではなく、現実世界と並存する異世界というのが特徴である。
ある男が橋の上で絞首刑になろうとしていた。足元の板が外され川に落ちた彼が、敵の銃弾を逃れてたどり着いたのは......「アウルクリーク橋の出来事」。
森に住む女が恋人からの求婚を頑なに拒んだ理由とは......「豹の眼」。
ひたすら「死」を描き続けた短篇の名手ビアスの14篇。
アンブローズ・ビアス Ambrose Bierce |
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[ 1842 - 1914? ] アメリカのジャーナリスト、作家。オハイオ州の貧農の末っ子に生まれ、16歳から新聞植字工など、職を転々とする。南北戦争(1861〜65年)で北軍に志願し、激戦を経験。除隊後、サンフランシスコの新聞・雑誌に投稿しはじめ、すぐに時評欄を任される。政治家・大実業家などに筆で挑み、その鋭さで「ビター・ビアス(辛辣なビアス)」と呼ばれるようになる。1880年代末には、妻との別居、長男の決闘による死と家庭の不幸が続くが、創作面では本書収録の「アウルクリーク橋の出来事」など代表的短篇を生み出す。1906年『冷笑家用語集』(後に『悪魔の辞典』と改題)出版。1913年アメリカ南部の古戦場を巡る旅に出て、内戦下のメキシコに入った後、消息不明となる。 |
[訳者] 小川高義 Ogawa Takayoshi |
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1956年生まれ。東京工業大学名誉教授。著書に『翻訳の秘密』。訳書に『低地』(ラヒリ)、『さゆり』(ゴールデン)、『骨』(フェイ・ミエン・イン)、『オリーヴ・キタリッジの生活』(ストラウト)、『老人と海』(ヘミングウェイ)、『緋文字』(ホーソーン)、『黒猫/モルグ街の殺人』(ポー)、『若者はみな悲しい』『グレート・ギャッツビー』(共にフィッツジェラルド)ほか多数。 |