ゾシマの言葉にしたがって、アリョーシャは父の家に出かける。父と長男ミーチャとの確執は、激しさを増していくようだ。イリューシャとの出会い、スネギリョフ大尉の家で目にしたものなど、アリョーシャの心はさまざまに揺れ動き、イワンの「大審問官」で究極の衝撃を受ける。
重い病の床に伏すゾシマ長老は、アリョーシャをはじめとする修道僧たちに、若き日の回想と遺訓を語りはじめる。父親とミーチャの争いは過激さを増し、イワンはアリョーシャに自作の「大審問官」を話して聞かせる。
第1部で父フョードルがイワンとアリョーシャを相手に投げかけた、神の存在と不在をめぐる問いが、巨大な、ほとんど遠心力ともいえるエネルギーをかきよせ、「プロとコントラ」「ロシアの修道僧」に結実する。哲学思想上の要ともいうべき部分がこのふたつの編に集約されるのをみて、読者の多くは、はやくも最初のクライマックスが訪れたという印象をもたれるにちがいない。<全5巻>
ドストエフスキー年譜 |
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フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー Ф. М. Достоевский |
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[ 1821 - 1881 ] ロシア帝政末期の作家。60年の生涯のうちに、以下のような巨大な作品群を残した。『貧しき人々』『死の家の記録』『虐げられた人々』『地下室の手記』『罪と罰』『賭博者』『白痴』『悪霊』『永遠の夫』『未成年』そして『カラマーゾフの兄弟』。キリストを理想としながら、神か革命かの根元的な問いに引き裂かれ、ついに生命そのものへの信仰に至る。日本を含む世界の文学に、空前絶後の影響を与えた。 |
[訳者] 亀山郁夫 Kameyama Ikuo |
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1949年生まれ。名古屋外国語大学学長。東京外国語大学名誉教授。ドストエフスキー関連の研究のほか、ソ連・スターリン体制下の政治と芸術の関係をめぐる多くの著作がある。著書に『新カラマーゾフの兄弟』『謎とき「悪霊」』『磔のロシア』『熱狂とユーフォリア』『ドストエフスキー父殺しの文学』『「悪霊」神になりたかった男』『大審問官スターリン』『ドストエフスキー 共苦する力』ほか多数。訳書に『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』『悪霊』『白痴』『賭博者』(以上、ドストエフスキー)ほか。 |