「あらゆるものであり得ることによって何者でもない者。何ものでもないことによってあらゆるものであり得る者」。楽々と「他者」になりきり、「自己」なきパロディーを生きる男、それがクルル。
クルルはある青年貴族の身代わりとなってリスボンに向かう。車中、古生物学者クックック教授と同席し、地球の生命と宇宙の生成について講義を受ける。クルルは深い感銘を覚えるが、一方で教授の娘にも魅了され......。稀代の詐欺師クルルの身に、予想外の展開が!
トーマス・マン Thomas Mann |
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[ 1875 - 1955 ] リューベックの富裕な家庭に生まれたドイツの作家。ヴァーグナー、ニーチェなどの影響を受ける。ミュンヘンに移住後、長編小説『ブデンブローク家の人々』を発表(1901年)、注目を浴びる。1929年、ノーベル文学賞受賞。1933年、旅行中にスイスで亡命生活に入り、ナチスに対してつねに反対の姿勢をつらぬく。作品に『トーニオ・クレーガー』『魔の山』『ヨセフとその兄弟たち』『ヴァイマルのロッテ』『ファウストゥス博士』、エッセイに『非政治的人間の考察』など。 |
[訳者] 岸 美光 Kishi Yoshiharu |
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1948年埼玉県生まれ。翻訳業。元・東京都立大学教授。18世紀ドイツ文学専攻。主な訳書に『大きなケストナーの本』(ケストナー、リスト編、共訳)、『だまされた女/すげかえられた首』(マン)、『詐欺師フェーリクス・クルルの告白』(マン)がある。 |