「正気の沙汰とは思えない奇妙きてれつな出来事、グロテスクな人物、爆発する哄笑、瑣末な細部への執拗なこだわりと幻想的ヴィジョンのごったまぜ」(解説より)。
増殖する妄想と虚言の世界を新しい感覚で訳出した、ゴーゴリの代表作「鼻」、「外套」、「査察官」の3編。
自分の鼻が一人歩きをして物議をかもす『鼻』。貧しい官吏が思い切って新調した外套を奪われ幽霊となって徘徊する『外套』。戯曲『査察官』では、ある地方都市にお忍びの査察官がくるという噂が広まり、市長をはじめ小役人たちがあわてふためく。
今回のこの三作は「落語調」に訳してある。べつだん奇をてらったつもりはない。『外套』ばかりではなく、ゴーゴリの小説では「語り」の要素がきわめて大きい。これはゴーゴリが無類の朗読の名手であったことと無縁ではない。彼は身振り手振りをまじえ、声色も変えながら巧みに語ったと言われる。
ニコライ・ワシーリエヴィチ・ゴーゴリ Н.В.Гоголь |
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[ 1809 - 1852 ] ウクライナ出身のロシア作家。幻想と妄想に彩られた現実をグロテスクに描き出した。『死せる魂』『ネフスキー大通り』『肖像画』『狂人日記』の小説のほか、『結婚』などの戯曲がある。荒唐無稽、奇想天外、抱腹絶倒の物語を書いて、彼の右に出る作家はいない。ロシア随一の奇っ怪な想像力の持ち主。 |
[訳者] 浦 雅春 Ura Masaharu |
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1948年生まれ。ロシア文学者。チェーホフを中心としたロシア文学、ロシア・アヴァンギャルド芸術の研究を手がける。著書『チェーホフ』ほか、訳書に『鼻/外套/査察官』(ゴーゴリ)、『ワーニャ伯父さん/三人姉妹』『桜の園/プロポーズ/熊』『かもめ』(チェーホフ)、『メイエルホリド・ベストセレクション』(共訳)、『牛山羊の星座』『チェゲムのサンドロおじさん』(イスカンデル、後者は共訳)、『イワンとふしぎなこうま』(エルショーフ)などがある。 |
書評 | |
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2022.09.10 朝日新聞 | 〈ひもとく〉大文明と小さな文化 深層からみるウクライナ問題:一橋大学名誉教授・田中克彦さん |