20世紀スイスの巨星が遺した、巧緻なミステリーと深い寓意に満ちた本邦初訳を含む中編4編。

失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選

失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選

デュレンマット    
増本浩子  訳   

豊崎由美さん(書評家)激賞! ミステリーファンとストレンジ・フィクションファンは必読。こんな面白い作家、今までどこに隠していたんですかっ!?

物語

いつもの列車は知らぬ間にスピードを上げ......日常が突如変貌する「トンネル」、自動車のエンストのため鄙びた宿に泊まった男の意外な運命を描く「故障」、粛清の恐怖が支配する会議で閣僚たちが決死の心理戦を繰り広げる「失脚」など、本邦初訳を含む4編を収録。


内容

デュレンマットは現代の世界を「故障の世界」と呼んだ。それが確かに「故障の世界」であることを誰よりも痛感しているのは、東日本大震災以後を生きる私たち日本人ではないだろうか。(訳者)


[書評]
  • ナンクロメイト(マガジン・マガジン)2012年11月号/オモシロ本の世界
  • 四篇それぞれに趣向は異なるが、共通しているのは「この世の深淵をふとのぞいてしまう」感覚だ。(評者:牧眞司さん/翻訳家・SF評論家)
  • GINZA(マガジンハウス)2012年10月号/豊崎由美のワンダーブック3
  • 予測不能なストレンジフィクションが読みたい方におすすめ。4種4様のテクニカルな作品が愉しめる1冊です。(評者:豊崎由美さん)
  • 週刊朝日2012年9月7日号
  • 「あっけにとられる神話の現代的解釈/他人が巻き込まれる悲劇は、どうやらデュレンマットの世界では、喜劇と区別がつかない。そして逆説的なようだが、その区別のつかなさこそ、重苦しさからわれわれを自由にする解放の約束なのだ。」(評者:管 啓次郎さん)
  • 読売新聞2012年8月27日夕刊
  • 「一夜の宿で偶然出会った老人たちと、裁判ごっこを始める営業マンに、もしかしたらこんな最後が?という淡い予想も簡単に裏切られる「故障」など。意外性の宝箱。」
  • ミステリマガジン2012年10月号
  • 「オールタイム・ベスト級の傑作選/『失脚』--延べ15人ものお偉方を、アルファベットで記号化しながらも、そのプロフィルを"寸鉄人を刺す"の精神で描出する筆力は見事で、カリカチュアライズされた人間模様の面白さが抜群。」(評者:三橋暁さん)
  • 毎日新聞2012年7月22日/今週の本棚
  • 「同時代の「なにか」を連想させる現代の寓話/『トンネル』--訳者も指摘しているように、3・11以後の日本の状況を思わずにはいられない寓話である。」(評者:鹿島茂さん)
フリードリヒ・デュレンマット    Friedrich Dürrenmatt
[ 1921 - 1990 ]    スイスの作家。ベルン州コノルフィンゲンに牧師の息子として生まれる。ベルン大学とチューリヒ大学で哲学などを専攻。21歳で処女作『クリスマス』を執筆。24歳のときに短編『老人』が初めて活字となる。同年、最初の戯曲『聖書に曰く』の執筆を開始。50年代から60年代にかけて発表した喜劇によって劇作家として世界的な名声を博したほか、推理小説『裁判官と死刑執行人』がベストセラーに。1988年、演劇から離れ散文の創作に専念することを発表。晩年は自叙伝『素材』の執筆に打ち込む。1990年、ヌシャテルの自宅で死去。代表作に『老貴婦人の訪問』、『物理学者たち』など。
[訳者] 増本浩子    Masumoto Hiroko
1960年生まれ。神戸大学大学院人文学研究科教授。専門はドイツとスイスの現代文学・文化論。著書に『フリードリヒ・デュレンマットの喜劇』、共訳書に『ブレヒト 私の愛人』(ベアラウ)、『ドイツの宗教改革』(ブリックレ)、『ハルムスの世界』(ハルムス)など。