英国流知的隠遁生活の至福

ヘンリー・ライクロフトの私記

ヘンリー・ライクロフトの私記

ジョージ・ギッシング    
池 央耿  訳   

美しい自然描写と古典への傾斜。エッセイ風小説の最高峰!

内容

どん底の境遇のなかで謹厳実直に物を書き続けて三十余年。不意に多少の財産を手にしたライクロフトは、都会を離れて閑居する。四季折々の自然の美しさに息を吞み、好きな古典文学を読み耽りながら、自らの来し方を振り返る日々――味わい深い随想の世界を心に染みる新訳で。


作品

恋した女を貧困生活から救うために盗みを働き、大学を追放されたギッシング。 以後、社会の底辺にいる人々を書き続け、ようやく晩年に良き伴侶を得た彼が、 フランスで祖国を想い綴った自伝的小説。


解説

松本 朗(上智大学教授)

ジョージ・ギッシング   
[ 1857 - 1903 ]    英国の小説家。成績優秀の少年時代を送るも、18歳のときに女に金を工面してやろうとして学友から金を盗み、逮捕されて学者としての将来を棒に振る。1カ月収監された後に渡米し、新聞に短編小説を寄稿するなどして糊口をしのぐ。帰国後は、貧困に喘ぐ労働者階級の人々の生活をジャーナリスティックに描いた小説を次々と発表。1890年には自分の分身のような人物を主人公とした『三文文士』が好評を博して文壇での地位を確立した。キャリアが波に乗る一方、私生活では無知で情緒不安定な下層階級の女性と2度結婚して失敗。1899年にフランス人女性と渡仏して結婚、ようやく幸福な生活を手に入れる。本書はそんな中で1901年から翌年にかけて、自らの来し方を振り返りつつ書かれた小説で、生前刊行された最後の作品となった。
[訳者] 池 央耿    Ike Hiroaki
1940年生まれ。翻訳家。訳書に『クリスマス・キャロル』(ディケンズ)、『南仏プロヴァンスの12か月』(メイル)、『新・人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』(フルガム)、『アバラット』(バーカー)、『パイド・パイパー』(シュート)、『キーパー』(ピート)、『失われた地平線』(ヒルトン)、『ガーネット傑作集』、『タイムマシン』(ウェルズ)、『ヘンリー・ライクロフトの私記』(ギッシング)、『二都物語』(ディケンズ)ほか多数。