美少女と美少年、美しくせつない「恋」と「疑惑」の物語......

ドン・カズムッホ

ドン・カズムッホ

マシャード・ジ・アシス    
武田千香  訳   

ブラジル文学第2弾! ブラジル文学の頂点。
偏屈卿〈ドン・カズムッホ〉と呼ばれた男の、数奇な?自叙伝?

作品

「いつもいっしょ......」「こっそりと......」「もし二人が恋仲にでもなったら......」 彼女は視線をゆっくり上げ、わたしたちは互いにみつめあった......。みずみずしい描写で語られる愛と友情、波瀾万丈の物語。小説史上まれにみる魅力的なヒロインが、こんなところに隠れていた。


内容

『ドン・カズムッホ』(1899/1900)は、ほぼ必ずといっていいほど『ブラス・クーバスの死後の回想』(1881)と並べて、ブラジルの文豪マシャード・ジ・アシスの最高傑作に挙げられる作品である。「姦通」というテーマは共通するが、作品の趣きは対照的で、『ブラス・クーバスの死後の回想』が、非常に奇抜で革新的な形式によって現代においてもなお読者に衝撃を与えるのに対し、幼なじみ同士のほのぼのとした恋物語が懐かしく振りかえられる『ドン・カズムッホ』は、一見「普通の」温かな回想記のような印象を与える。だがじつはこの作品にも『ブラス・クーバスの死後の回想』に決して引けをとらない画期的な文学的技法の特徴がある。小説としての完成度は高く、人間心理の深い探求という観点を加味すると、『ブラス・クーバスの死後の回想』をあるいは凌ぐかもしれない。マシャードの長編小説は、多くがまず雑誌に掲載され、そのあと本として刊行されたが、『ドン・カズムッホ』は、最初から本として編まれた。それだけ丹念に作りこまれた作品なのである。〈訳者・解説より〉


「複合的な文化をもつ国ブラジルの、善と悪を同時に受け容れる小説 『ブラス・クーバスの死後の回想』」 武田千香さんに聞く
[書評]
マシャード・ジ・アシス    Machado de Assis
[ 1839 - 1908 ]    ブラジルを代表する作家。第二帝政期の奴隷制度が敷かれたリオデジャネイロの貧しい家庭で育つ。父方の祖父母は解放奴隷で、母親はポルトガル移民。 独学で、書店や印刷所で働きながら詩人として文壇にデビュー。新聞の時評,詩,戯曲,短・長編小説、翻訳など手がけたジャンルは多岐にわたる。ブラジル文学アカデミーの初代会長を務めた。一般に本書と『ドン・カズムッホ』『キンカス・ボルバ』を合わせた長編小説が三大傑作とされ、「精神科医」をはじめとする短編も評価が高い。マシャードを抜きにブラジルの文学を語れないほどの存在感を誇る。
[訳者] 武田千香    Takeda Chika
東京外国語大学教員。文学を中心にブラジルの文化を研究する。主な訳書にマシャード・ジ・アシス『ブラス・クーバスの死後の回想』『ドン・カズムッホ』、J.アマード『果てなき大地』、シコ・ブアルキ『ブダペスト』、P.コエーリョ『ポルトベーロの魔女』、著書に『ブラジルのポルトガル語入門』ほか、編書に『現代ポルトガル語辞典』などがある。