将来を嘱望された青年アドルフは、P伯爵の愛人エレノールに執拗に言い寄り、ついに彼女の心を勝ち取る。だが、密かな逢瀬を愉しむうちに、裕福な生活や子供たちを捨ててまでも一緒に暮らしたいと願うエレノールがだんだんと重荷となり、アドルフは自由を得ようと画策するが......。
もはや愛していない女から離れられない男、人生のすべてをなげうって男を束縛する女。誰もが身につまされる恋愛の葛藤でありながら、ここまで男女の心の動きを緻密に描いた作品は他に類をみない。これは人々に愛された政治家でありながら、自らも人妻たちとの不倫で浮き名を流した作家コンスタンのみが書きえた傑作だ。
バンジャマン・コンスタン Benjamin Constant |
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[ 1767 - 1830 ] フランスの作家、政治家、思想家。スイス・ローザンヌ生まれ。『征服の精神と簒奪について』『立憲政治講義』『百日天下についての回想』など、数多くの政治的論文のほか、『宗教について』などを出版。小説は『アドルフ』、翻訳戯曲にシラーの『ヴァレンシュタイン』がある。職業軍人だった父とともに、幼少期からヨーロッパ各地を転々とし、イギリス、ドイツの大学に学ぶ。1785年に初のパリ滞在。1797年にフランス国籍取得。生涯、数多くの人妻たちと恋愛を繰り返し、なかでも作家、批評家として高名であったスタール夫人との交際は有名で、夫人がナポレオンから国外追放になった際には、ともに逗留したドイツでゲーテやシラー、シュレーゲルらと交流した。政治家としては変節の連続で、浮き沈みも激しかったが、晩年は王政復古を支持して人気を博し、死去の際には国葬が行われた。 |
[訳者] 中村佳子 Nakamura Yoshiko |
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フランス文学翻訳家。1967年広島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒。訳書に『アドルフ』(コンスタン)、『ベラミ』(モーパッサン)、『ある島の可能性』(ウエルベック)などがある。 |