四度映画化されたことでも有名な本作は、これまでハードボイルドのジャンルに乱暴に押し込められていた。しかし現在では一人称の語りの迫力、その裏に秘めた繊細さや社会性が注目され、広く「ノワール」の傑作として再評価されている。いまこそ読者は主人公の心情をリアリティと共感をもって受け止められるのかもしれない。
街道沿いのレストランで働き始めた俺は、ギリシャ人店主の美しい妻コーラにすっかり心を奪われてしまった。やがて、いい仲になった彼女と共謀して店主殺害を計画するが......緻密な小説構成の中に、非情な運命に搦めとられる男女の心情を描きこんだ名作(解説・諏訪部浩一)。
ジェイムズ・M・ケイン James M. Cain |
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[ 1892 - 1977 ] アメリカ・メリーランド州で教育者の父とオペラ歌手の母との間に生まれる。大学卒業後、ジャーナリストとして活躍し、「ニューヨーク・ワールド」紙の風刺的な社説などが人気となる。1930年、政治エッセイ『われらの政府』を出版。その後ハリウッドに転居して映画の脚本家を目指すも成功せず、以降は小説家として身を立てることになる。1933年発表の短篇「冷蔵庫の赤ん坊」が人気を博して映画化されたのち、1934年の初長篇『郵便配達は二度ベルを鳴らす』が大ベストセラーとなった。本作はカミュ『異邦人』にも影響を与えたとされる。その後も『殺人保険』『セレナーデ』『ミルドレッド・ピアース』など小説を発表し、多くの作品が映画化された。 |
[訳者] 池田真紀子 Ikeda Makiko |
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上智大学法学部卒業。翻訳家。訳書に『ボーン・コレクター』『コフィン・ダンサー』などリンカーン・ライム"シリーズ(ディーヴァー)、『トム・ゴードンに恋した少女』(キング)、『フロイトの雨』(マドセン)、『ファイト・クラブ』(パラニューク)、『雨の掟』(アイスラー)『幼年期の終わり』(クラーク)ほか多数。" |