あなたもまた、「にんじん」だったかもしれない。

にんじん

にんじん

ルナール    
中条省平  訳   

親による精神的虐待に耐え、しなやかに成長していく少年の物語。

作品

日本では長らく『にんじん』は肉親によるいじめを扱った「子供向けの本」と思われてきた。しかし本書は作者が自身の人生を見つめ、注意深く断章を重ねて描いた魂の物語であり、決して子供向けの作品ではない。道徳や教訓を探さず、物語そのものに向き合うとき、作者の透徹した眼差しと、テーマの普遍性に驚かされる。


物語

赤茶けた髪とそばかすだらけの肌で「にんじん」と呼ばれる少年は、母親や兄姉から心ない仕打ちを受けている。それにもめげず、自分と向き合ったりユーモアを発揮したりしながら日々をやり過ごすうち、少年は成長していく。著者が自身の少年時代を冷徹に見つめて綴った自伝的小説。


<あとがきのあとがき> ほんとうの「にんじん」は、どこにいるのか?──ジュール・ルナールの不思議 『にんじん』の訳者・中条省平さんに聞く
『にんじん』が大竹しのぶさん主演ミュージカルに

ルナール    Jules Renard
[ 1864 - 1910 ]   

フランスの小説家、戯曲作家。フランス北西部メーヌ地方に生まれる。父は土木技師。パリで高等中学に通うも高等師範学校は諦め、文学サロンや出版界に出入りする。兵役に就いたのち、職探しに難渋するが、1888年に結婚し、妻の持参金で生活が安定。翌年、文芸誌「メルキュール・ド・フランス」の創刊に参加し、筆頭株主となる。同誌には、のちに『にんじん』に含まれる短編も発表される。短編小説集『薄ら笑い』(1890年)、長編小説『ねなしかずら』(1892年)、短編連作『にんじん』(1894年)、自然のスケッチ集『博物誌』(1896年)、戯曲『別れも愉し』(1897年)などを発表。また、死の直前まで執筆された大部な『日記』も評価が高い。

[訳者] 中条省平    Chujo Shohei
1954年生まれ。学習院大学教授。仏文学 研究のほか、映画・文学・マンガ・ジャズ 評論など多方面で活動。主著に『カミュ伝』『恋愛書簡術』『反=近代文学史』『フランス映画史の誘惑』。訳書に『マダム・エドワルダ/目玉の話』(バタイユ)、『恐るべき子供たち』(コクトー、共訳)、『肉体の悪魔』 (ラディア)、『花のノートルダム』(ジュネ)、『消しゴム』(ロブ=グリエ)、『狭き門』(ジッド、共訳)、『にんじん』(ルナール)、『すべては消えゆく』(マンディアルグ)ほか多数。