南北戦争に敗れたアメリカ南部。物質的近代化が進む一方で、奴隷制など古い価値観の転換を強(し)いられた結果、時に人々のアイデンティティや信仰に混乱が生じ、人種差別主義も先鋭化した。本作は、そんな時代に苦悩する人々の心情を、新しい文学的手法によって詳細かつ重層的に記述することで、人間の普遍的問題を暴き出した傑作である。
お腹の子の父親を追って旅する女、肌は白いが黒人の血を引いているという労働者、支離滅裂な言動から辞職を余儀なくされた牧師......。米国南部の町ジェファソンで、過去に呪われたように生きる人々の生は、一連の壮絶な事件へと収斂していく......。ノーベル賞受賞作家の代表的作品。
ウィリアム・フォークナー William Faulkner |
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[ 1897 - 1962 ] アメリカ合衆国の小説家。ミシシッピ州に生まれ、生涯のほとんどを同州オックスフォードで過ごす。第一次世界大戦に志願するも戦地に赴くことはかなわず、その後ミシシッピ大学に入学。1年で退学した後、ニューオーリンズでシャーウッド・アンダスンの知己を得て、長篇小説に専心。『響きと誇り』『サンクチュアリ』『八月の光』『アブサロム、アブサロム』など、ヨクナパトーファ郡ジェファソンという架空の町を舞台にした作品群が1940年代に評価され、世界的名声を確立した。1950年、ノーベル文学賞受賞。 |
[訳者] 黒原敏行 Kurohara Toshiyuki |
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1957年生まれ。英米文学翻訳家。訳書に『すばらしい新世界』(ハクスリー)、『闇の奥』(コンラッド)、『幻の女』(アイリッシュ)、『蠅の王』(ゴールディング)、『すべての美しい馬』『越境』『ザ・ロード』(マッカーシー)、『儚い光』『冬の眠り』(マイクルズ)、『ソフィー』(バート)、『コレクションズ』(フランゼン)、『ユダヤ警官同盟』(シェイボン)など多数。 |
書評 | |
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