社会の"どん底"で、這うように生きる人々の活力と哀愁。

二十六人の男と一人の女 ゴーリキー傑作選

二十六人の男と一人の女 ゴーリキー傑作選

ゴーリキー    
中村唯史  訳   
100年の時を経て、いまこそ読まれるべき文豪の短篇集。
作品
本書に描かれた十九世紀後半のロシアは、(中略)既存の社会機構の動揺や明確な価値観の喪失等で、現代のグローバル化した世界にも通じている。流動化した世界に生きる私たちは、ゴーリキーの手を経て本書に立ち現れた群像の中に、自分たちに類した絶望や希望、感情や思考の屈託と流露を見いだすだろう。(解説より)
物語
半地下の部屋で一日中パンを作らされている俺たちには、毎朝やってくる小間使いターニャの存在だけが希望の光だった。だが、伊達男の登場で……。底辺で生きる男たちの哀歓を歌った表題作、港町のアウトローの郷愁と矜持を生き生きと描いた「チェルカッシ」など、初期・中期の4篇。
目次
二十六人の男と一人の女─ポエムー
グービン
チェルカッシ
 解説 中村唯史
 年譜
 訳者あとがき
マクシム・ゴーリキー    Максим Горький
[ 1868 - 1936 ]   

ロシアの作家・ジャーナリスト。ニジニー・ノヴゴロド(1932-90年まで彼にちなみゴーリキーと呼ばれた都市)の商人階層の家に育つ。困窮のため11歳から働き始め、20代まで各地を放浪した後、その経験を基にした短篇を次々と発表。1898年には作品集『記録と短篇』が刊行され好評を博す。革命運動にも関与しつつ、戯曲『どん底』、長編『母』などを執筆し、「プロレタリア文学の父」とも呼ばれた。革命後は、ボリシェヴィキ政権と対立してイタリアに移るが、やがて擁護に転じ、1933年に帰国。その後はソ連の文化政策に協力する一方、体制に順応できない知識人の擁護にも尽力した。

[訳者] 中村唯史    Tadashi Nakamura

1965年北海道生まれ。東京大学大学院人文科学研究科露語露文学専攻博士課程退学。モスクワ大学留学、山形大学教授などを経て、現在、京都大学教授。専門はロシア文学・ソ連文化論。共編著に『再考ロシア・フォルマリズム』『映像の中の冷戦後世界』『自叙の迷宮』ほか。翻訳に『オデッサ物語』(バーベリ)、『恐怖の兜』(ベレーヴィン)、『ハジ・ムラート』(トルストイ)、『トレブリンカの地獄』(グロスマン、共訳)など。

書評
2019.03.17 毎日新聞    今週の本棚/行き届いた人間観察、美しい会話(荒川洋治・評)