貧乏に追われる町人VS.借金取り

世間胸算用

世間胸算用

井原西鶴    
中嶋 隆  訳   
一年の総決算、大晦日の攻防で“笑かす”西鶴の代表作!
作品
西鶴は極貧生活をおくる町人を客観的に描いたわけではない。共感があるからこそ、それが笑いの対象となる。読者も、切羽詰まった大晦日の町人の貧困生活に共感する、つまり「わいも同じやんか」と感じるからこそ、思わず失笑してしまう。『世間胸算用』は『好色一代男』とは違う発想の笑いを創作した新しい喜劇的小説だと思う。(訳者)
物語
一年の総決算である大晦日その日を舞台に、貧乏と借金に追われる町人の悪戦苦闘ぶりを描いた連作短編集。正月飾りのことで息子を叱る隠居婆、借金取りから逃げるための「亭主の入れ替わり」策、貧困にあえぐダメ亭主と女房など、滑稽さやおかしさをストレートに伝える関西弁の新訳。
目次
 
序文
  • 巻一
  • 巻二
  • 巻三
  • 巻四
  • 巻五

問屋の見栄張り女房(問屋の寛闊女)

昔もらった長刀の鞘を質種に(長刀はむかしの鞘)

稀少な伊勢海老は春の紅葉(伊勢海老は春のもみじ

手紙を届ける鼠(鼠の文づかひ)

会費は銀一匁の講仲間(銀壱匁の講中)

嘘も只では通らない茶屋(訛言も只はきかぬ宿)

なるほど、倹約が大切(尤始末の異見)

支払いの済まない門柱(門柱も皆かりの世)

都の顔見せ歌舞伎(都のかほ見せ芝居)

年末の餅花は見栄えがする(年の内の餅ばなは詠め)

小判が寝姿ほどあらわれる夢(小判は寝姿の夢)

神様さえ見当違い(神さへお目違ひ)

闇夜の悪口(闇の夜のわる口)

奈良の土間竈(奈良の庭竈)

亭主の入れ替わり(亭主の入替り)

長崎名物の柱餅(長崎の餅柱)

大晦日の夜市(つまりての夜市)

筆の軸を工夫したすだれ(才覚のぢくすだれ)

平太郎殿の讃談(平太郎殿)

繁盛の江戸出店(長久の江戸棚)

 解説 中嶋隆
 年譜
 訳者あとがき
              
井原西鶴    Ihara Saikaku
[ 1642〈寛永19〉 - 1693〈元禄6〉 ]   

江戸時代前期を代表する俳諧師、浮世草子作者。大坂の商家に生まれる。39歳で、一日に4000句を一人で詠む「矢数俳諧」に成功して名声を得た。41歳時に浮世草子『好色一代男』を出版。当時の出版界に衝撃を与え、以降人気作家となる。『好色五人女』『好色一代女』『男色大鑑』『日本永代蔵』『武家義理物語』『世間胸算用』など、次々に問題作を刊行し、近代以降の作家にも多大な影響を及ぼす。52歳歿。

[訳者] 中嶋 隆    Nakajima Takashi

1952年、長野県生まれ。早稲田大学名誉教授。作家。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。専門は西鶴などの江戸時代文芸・文化研究。著書に『西鶴と元禄メディア』『初期浮世草子の展開』『西鶴と元禄文芸』『西鶴 「誹諧独吟一日千句」研究と註解』等多数。小説『廓の与右衛門 控え帳』で第8回小学館文庫小説賞受賞。時代小説は他に『はぐれ雀』『補陀落ばしり物語』など。訳書に『好色一代男』(井原西鶴) がある。