勤務先の東京外国語大学では、3年ほど前から、「舞台芸術に触れる」という総合科目を開講している。夏学期だけの半年の自由選択科目だが、毎年100名を超す学生が受講する盛況振り(本学は1学年800名未満の少人数教育です!)。そもそも、毎年秋の学園祭である「外語祭」で、26の専攻語の学生が2年生を中心にその外国語劇を上演する伝統がもう100年余も続いていて、課外活動ながら外国語教育の一環としてもしっかり組み込まれているので、それなら実際の観劇の楽しさも並行して身につけてもらおうという趣向。いわば演劇リテラシーのようなもの、といえるだろうか。
各講師が、ギリシア演劇やシェイクスピアからブレヒト、カントール、能・歌舞伎まで、世界の演劇をそれぞれに読み切りでパノラマ化するとともに、新国立劇場や世田谷パブリックシアター、彩の国さいたま芸術劇場などの現場のプロデューサーや演劇人にも来ていただき、実際の劇場での実践について話していただく、といった講義に加えて(毎回レスポンスペーパーを提出)、受講学生はそれぞれ何かの芝居を実際に観て、その劇評をチケットの半券とともに提出することも、単位取得の条件となっている。
ただ演劇はライブなので、映画などと違って切符がけっこう高い。さて、と思っていたら、最近増えてきた公立劇場を中心に、学生割引をけっこうさまざまに気前よくやっていただけるようになり(半額というのも珍しくないのです!)、またこの授業の噂を聞きつけて、公演のチラシもたくさん送っていただけるようになった。ありがたい話と感謝多謝です。
でも交通費がかかる、とSPAC(静岡県舞台芸術センター)の方にぼやいたら、なんと去年から、「ハシゴ観劇ツアーバス from トーキョー」という無料バスまで出していただけることになった。ただし、朝の9:00か10:00に品川を出て、現地で3演目ほど観てから、夜の23:00か24:00に品川着という強行軍ではある。私も学生さんたちと一緒に7月4日にこのバスに乗せてもらって、コロンビア/スイスのテアトロ・マランドロ演出『スカパンの悪だくみ』と『タイタス解剖−ローマ帝国の落日』、宮城聰演出『ふたりの女〜唐版・葵上〜』の3作を、ポストトーク付で堪能させてもらった。帰りはさすがに友人の車に同乗させてもらったが、バス組のわが学生さんたちは終電に間に合わず、漫画喫茶で始発までおしゃべりしたという。若いからいいでしょ、それも含めての観劇体験ツアーかなと......。
ちょっとだけ、寄り道的な宣伝とご紹介まで......。
《谷川道子さんプロフィール》
東京外国語大学教授。ブレヒトやハイナー・ミュラー、ピナ・バウシュを中心としたドイツ現代演劇が専門。著書に『娼婦と聖母を越えて――ブレヒトと女たちの共生』、『ハイナー・ミュラー・マシーン』、『ドイツ演劇の構図』など。訳書に『指令(ドイツ現代戯曲選30)』(ハイナー・ミュラー)、『ピナ・バウシュ――怖がらずに踊ってごらん』(ヨッヘン・シュミット)、『ブレヒト作業日誌』(ブレヒト、共訳)
8月6日に光文社古典新訳文庫から『母アンナの子連れ従軍記』(ブレヒト 谷川道子・訳)が刊行。
■西日本新聞7月17日朝刊に掲載された谷川道子さんのピナ・バウシュ追悼文
■世田谷パブリックシアターレクチャー『劇場における公共性』での講演のお知らせ
日時:8月20日(木)19時~21時 >>詳細