2009.10.08
第4回カフェ光文社古典新訳文庫 沼野恭子さんトークイベント「花かダンゴかー19世紀ロシア文学における恋と食べ物」・レポート
カフェ光文社古典新訳文庫の第4回(8月22日(土)13:00〜 青山ブックセンター本店にて開催)は、『初恋』(トゥルゲーネフ)の翻訳者・沼野恭子さんに「花かダンゴか――19世紀ロシア文学における恋と食べ物」と題して、ロシア文学の代表的作家とその作品をあげて、恋とダンゴ――精神と物質に対するそれぞれの描写についてお話いただきました。
花派の
』。
恋については饒舌に語るけれど、ダンゴについてはほとんど言及されていない『初恋』。物質的なものよりも精神的なもののほうが大事、という典型的なロシア知識人であるトゥルゲーネフは、あまりにも食べ物に関しての表現が陳腐で、食べ物のことを小説に持ち込むことに抵抗感があるのではと思うほど。
では、食道楽小説と言えるほど、食についての描写は詳細に書き込まれ、匂いがするほどなのに、恋についての描写はあっさり。実は、ゴーゴリ自身、女性が苦手だったらしい。
アンナと恋に落ちるリョーヴィンとアンナの兄ヴロンスキーは、精神主義VS物質主義の象徴として対照的に描かれる。トルストイ自身、厳格なロシア正教信者で権力を認めず、後には肉食も絶ったことから、リョーヴィンはトルストイの分身と言われる。
"花"と"ダンゴ"を時間軸で分けて描写したのが、
花=精神派の存在である女性=アンナを理解できない、ダンゴ=物質派の存在としての男性だったグーロフが、40才を過ぎて初めての恋を知り、成長し変化していく。
最後二人はどうなったか、チェーホフは描かないまま、判断を読者にゆだねて終わる。
「たとえいくつになっても、恋をして人は変われる、人間的に成長できる、ということを信じられたら、それはとても素敵なこと」と、沼野先生。
チェーホフの余韻のあるラストとこの言葉を受けて終わった今回のカフェ。
じんわりあたたかい気持ちになりました。
恋と料理、どちらも人生を慈しむには欠かせないものですね。
当日、偶然このイベントを知って参加してくださった男性(30代・公務員)は、終了後早速、『初恋』と沼野先生の近著『ロシア文学の食卓』(NHKブックス)を手に取って、
「文学はちょっと敬遠していたところもあったけれど、お話を聞いて読みたくなりました。実は文学というのは俗っぽいところもあって、普段の生活の延長線上にあるものかも、と感じました。」