調布市せんがわ劇場で10月8日(金)から17日(日)まで公演された『オンディーヌ』(作:ジロドゥ 演出:ペーター・ゲスナー(調布市せんがわ劇場芸術監督) 翻訳:二木麻里)の観劇レポートです。
人形と人間が共演? 最初にこの上演企画を聞いた時は、いったいどんなものになるんだろうと、想像もつきませんでした。それが、観てびっくりなのです。 冒頭、オンディーヌの育ての親夫婦が娘を心配するやりとりを人形で展開することによって、軽妙にスピーディに物語の核心に入っていきます。また、人間より水の精の王がおそろしく大きく(ただ怖いだけでなく、水の世界のものすべてを包み込む大きさ・深さを感じます)、自然がときに狂暴なほどに大きいことを目の当たりにすることにもなる、すぐれものの仕組みなのです。 物語の背景がわかったところで、いよいよオンディーヌが登場。とにかく生命力と好奇心にあふれて、ぴょんぴょん飛び跳ねる姿には、くすくす笑わせられたり、はらはらさせられたり、ハンス同様に観ているこちらも翻弄させられながらも目を離せなくなっていきます。 ハンスに対する仲間の水の精たちの誘惑合戦、宮殿へ行ってからの恋敵ベルタとの対決などなど、意外にも女の怖さをじわりと感じた方も多いのではないでしょうか? こういったひじょうに人間的な感情のぶつかり合いを観ているうちに、いつのまにか笑いの要素より恋する切実な気持ちでいっぱいになっているから不思議です。 そして、クライマックスの別れのシーンに向かうころには、思わず涙、涙......。会場も息を呑んでオンディーヌの一言一言に聞き入っていました。また、最初は世間知らずの頼りなげな青年にも見えたハンスが、オンディーヌへの愛で頼もしい素敵な人になっているのも素晴らしい! 今回の上演は、一般市民が参加する"アンサンブル公演"。人形をはじめ、衣装や小道具もワークショップなどでスタッフみなさんが手作りしたとのことで、さまざまな工夫がこらされていました。水の精が登場する際の、天井から床まで届く「水」のセットや、登場人物が持つカバン(?)が一瞬にして劇場の監督役(の人形)になるものなど、そのアイディアを観ているだけでもわくわくしました。 戯曲だけで読んでいたときには、ロマンチックだけれど「おとぎ話」の印象が強かった台詞や場面が、人の声を通すとこんなにも説得力と動きのある物語になるとは! 戯曲は「舞台になって初めて完成する」とよく言われますが、そのとおりだとつくづく驚き、感動した舞台でした。 (編集部/Y.K)
01 | 02 | 03 | 04 |