2012.01.06

《書評》『種の起源』–日本経済新聞 2011年12月28日夕刊(瀬名秀明さんコラム)

日本経済新聞2011年12月28日夕刊、瀬名秀明さんのコラム「楽しみ味わう 科学の本棚」で『種の起源』(ダーウィン 渡辺政隆/訳)を取り上げていただきました。 東北大学で講演された際のご提案が実現することを願ってやみません!

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東北大学ウェブサイト  「作家・瀬名秀明氏による東北大学図書館創立百周年記念講演会  「科学と人間の未来、そして物語の力」」>>
熱き想いほとばしる最終章

 2009年、ちょうど生誕200年、出版150年に合わせて新訳刊行された光文社古典新訳文庫で私は初めてチャールズ・ダーウィン『種の起源』を読み、そのあまりの面白さに驚愕し、興奮したものだ。それまでダーウィンに関する本は読んでいたが、それらより原典ははるかに豊かで、リチャード・ドーキンスやスティーヴン・ジェイ・グールドはダーウィンの著作の隣に自著が置かれることを目指していたのだとさえ感じ、機会を与えてくれた訳者渡辺政隆に感謝した。  生物は個体変異し、それによって生存繁殖率に差が出る。それが積み重なることで新たな種となる。人は昔から動植物を飼育栽培し「選抜」して品種をつくってきた。同じことが自然界でも起こるはずだ。本書でダーウィンが「自然は飛躍せず」なる格言を引いて提示するのは、この自然淘汰の原理である。本書は大きな自然観の要約であったがために、細かな注釈や文献は記載されず、図もたったの一葉しかない。よって本書は時代を超えたネイチャーエッセイとして、私たちは無類の動物好きであったダーウィンの人柄さえ感じながら読み進められる。 (中略)  荒俣宏訳『ダーウィン先生地球航海記』や長谷川眞理子訳『人間の進化と性淘汰』も薦めたいが、本書には科学で学ぶべきことのすべてがある。粘り強く検証を続けたダーウィンがついに熱き想いを迸(ほとばし)らせる最終章は感動的だ。彼は物事を公正に眺められる、将来を担う伸び盛りの若いナチュラリストに期待を託す。私は本書初版本を収蔵する東北大学の講演会で、来年の新入生全員に文理を問わず大学から『種の起源』を贈ることを提案した。ただそれだけで20年後に世界は変わると述べた。いまもその想いは変わらない。

cover88.jpg 種の起源(上)
ダーウィン/渡辺政隆 訳 定価(本体840円+税)
cover96.jpg 種の起源(下)
ダーウィン/渡辺政隆 訳 定価(本体840円+税)