1999年『日蝕』で芥川賞を受賞して鮮烈なデビューを飾り、その後も『葬送』、『決壊』、『ドーン』などの意欲的な創作活動で知られる小説家・平野啓一郎さんが、「世紀末最大の傑作」と呼ばれるオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』を、新たに翻訳されました。本作は今年5月31日から東京・新国立劇場で上演される『サロメ』のために、演出家・宮本亜門さんの依頼を受け、平野さんが訳し下ろしたものです。
アイルランド出身の作家オスカー・ワイルドは小説『ドリアン・グレイの肖像』や児童向けの『幸福な王子』などで知られる作家。サロメは聖書の物語を題材にした短い戯曲ですが、その背徳性のために発表当初は上演が禁止されるという問題作でした。ワイルドは本作を初めはフランス語で書きあげて発表、のちに英語でも、恋人アルフレッド・ダクラスによる翻訳に大幅に手を入れたものを発表しています。
サロメといえば、英語版の初版に挿入されたオーブリー・ビアズリーの悪魔的なイラストや、ギュスターヴ・モローの幻想的な絵、そして日夏耿之介などの既存の邦訳の印象のために、妖艶な大人の女性のイメージが一般には浸透していました。しかし今回新たに平野啓一郎さんが、「いま息をしている言葉で」かつ原文に忠実に翻訳されたことにより、これまでの訳では見逃されていた王女サロメの無邪気な少女の一面に光が当たり、劇を通底する(のちに彼女自身もそこに呑み込まれていく)狂気とのコントラストがより鮮明になっています。また、ほかの登場人物たちも新しい視点から捉えなおされ、それによって「不朽の名作」としての本書の価値はさらに確固たるものになっているといえるでしょう。
本作には、「サロメ」本編のほかにも、ワイルド研究の第一人者である田中裕介さんによる詳細でわかりやすい註と解説、宮本亜門さんへのインタビューを収録。『サロメ』の奥深い世界を縦横に愉しめる構成となっています。
どうぞ光文社古典新訳文庫の新しい『サロメ』にご期待ください!4月12日発売です。
新国立劇場では『サロメ』上演に向けて、特設ウェブサイトをオープン。『サロメ』の上演史や、平野さんと宮本さんの対談、サロメ役の主演・多部未華子さんのインタビュー動画などを公開中です。