日本経済新聞2012年2月26日の書評欄「文壇往来」で『悪霊別巻 「スタヴローギンの告白」異稿 』(ドストエフスキー 亀山郁夫/訳)を取り上げていただきました(評者:編集委員 浦田憲治さん)。
(前略)『悪霊』はネチャーエフ事件をモデルに革命集団のリンチ殺人事件を描いている。オウム事件や二・二六事件などを予言する内容だ。政治的人間であるピョートル、自分が神となることを証明しようと自殺するキリーロフなど異常な人物が登場。亀山氏が魅了されたスタヴローギンが最も謎めいていて、第2部第9章に予定されていた「チーホンのもとで--スタヴローギンの告白」は衝撃的だ。ロシアでは内容が「不適当」として1871年の雑誌連載時から半世紀余り削除されていた。
『悪霊 別巻』は、この「告白」に3つの異稿があることに注目し、なぜ「告白」が3つも存在するのか、それぞれの違いは何か、どれを決定稿としたらよいのかを、近年の研究成果を踏まえて精密に探求している。ひとりの悪魔的人物の告白に『悪霊』を読み解く鍵があると考え、40年以上も『悪霊』を考え続けてきた亀山氏らしい労作だ。