古典新訳文庫でドストエフスキー『悪霊』を新訳したばかりの亀山郁夫先生が、この作品のはらむ謎について、長年の研究をもとに書きあげたのが今回の受賞作です。ロシア文学者の故・江川卓さんの「謎とき」シリーズの流れに位置づけられる作品ですが、江川先生の偉業を意識しつつ、今回、亀山先生は満を持して、自分なりの視点で自信を持って、この作品に取り組んだということです。
古典新訳文庫の悪霊別巻で、スタヴローギンの告白の「3つの異稿」を訳出し、さらにそのテキストに詳細な分析を加えた先生の、情熱がほとばしるような著作にこの賞が授与されたのは当然と言えるかもしれません。
授賞式は2月18日(月)18時からに帝国ホテルで行われました。
たくさんの人がお祝いに駆けつけていましたが、先生は壇上での受賞者あいさつの後、パーティに移ると和やかな表情で会場からの祝福を受けていました。すでにたくさんの文学賞を受賞している先生ですが、ドストエフスキーの作品のなかでもひときわ愛着のある『悪霊』での受賞は感慨もひとしおだったようです。
選評を担当した荻野アンナさんのユーモラスな作品の紹介ぶりも、会場の笑いを誘っておりましたが、「謎とき『悪霊』」については、「真面目」に解説していただきました。
今回の受賞作と古典新訳文庫の『悪霊』全4巻を合わせてお読みいただければ、ますます深まる謎に眩惑されつつも、『悪霊』の理解が一段と深まることは間違いありません。まだ読んでいない方は、この機会にぜひご一読をお勧めいたします。