2月19日(火)に東大の法文二号館で沼野充義教授と作家の多和田葉子さんに「続・世界は文学でできている/母語の外に出る旅 進化する翻訳」というタイトルで対談をしていただきました(主催:出版文化産業振興財団(JPIC)、東京大学文学部現代文芸論研究室/協力:光文文化財団、光文社)。当日は雪まじりのお天気でしたが、大きな教室に100名を超える方々がお集まりくださいました。ありがとうございました。
昨年、当翻訳編集部より刊行しました沼野充義編著『世界は文学でできている』はゲストにリービ英雄さん、平野啓一郎さん、ロバート キャンベルさん、亀山郁夫さんらを迎え、日本文学を含む世界文学について縦横に語っていただき、読者からも大変な好評で迎えられました。「越境する文学」の最先端で活躍している文学者たちに沼野先生が鋭く切り込むという形のスリリングな対談ゆえに高い評価につながったのだと思います。今回の対談は今年刊行予定の第2弾に収録するために実現したものです。
ドイツに在住する多和田さんは今年の読売文学賞を『雲をつかむ話』で受賞、今回の来日は対談の前日に行われた授賞式に出席するためのものでしたが、その多忙な中をぬって対談に駆けつけていただきました。
日本語とドイツ語を使って創作するという、近現代の日本文学のなかでも例のない表現世界を確立されている多和田さんに、沼野先生からその文学観から、実際の創作の様々なエピソードまで、実に多様なテーマについて質問がありました。そのやり取りのなかに、まさに「世界が文学でできている」ことを証明するような見事な言葉の空間が現出する実感があり、会場は深い感動と静かな興奮に満たされました。
とくに多和田さんの「ハムレットの海」という自作の詩の朗読には魅せられました。日本語と英語の音をミックスさせた今まで誰も聞いたことのないような詩で、驚きと讃嘆が会場に広がっていくのが手にとるようにわかりました。初めて体験する詩の朗読がもたらす内的興奮に、われわれ編集部スタッフも思わず陶然としてしまったほどです。
最後の質疑応答では、多和田さんの文学を研究している外国からの留学生たちが、素晴らしい日本語で、極めて本質的なことを質問したことが印象的でした。文学に国境はないと主張することは簡単ですが、それがやすやすと目前で達成されているのを見るのは、聴衆のみなさんもとても驚いたのではないでしょうか。少なくとも編集部は圧倒された思いがしました。
『続・世界は文学でできている』の刊行をどうぞお楽しみに。