傭兵編集者Oです。光文社古典新訳文庫編集部では、新刊・続刊やイベントの情報をTwitterで発信しています(@kotensinyaku)が、それと同時に、感想やご意見の断片など、日々Twitterを使って広く情報収集しております。ある日『すばらしい新世界』の反響などを知るためにタイトルで検索していますと、こんな情報が......
おお、高校生の読書会とは面白そうではないですか。
話が前後しますが、古典新訳文庫編集部では「読書エッセイコンクール」を毎年開催するなど、中・高校生にいかに本を読んでもらうかということについて、とても関心があるのです。
このあたりをぜひ知りたく思い、ツイート元の先生に連絡を取ってお願いし、この読書会を見学させて頂くことになりました。せっかくなので、翻訳者の黒原敏行さんにも来て頂くことに。
で、行ってきたのは筑波大附属駒場高校。驚異的な東大合格率を誇る国立の名門進学校ながら、自由闊達な校風で知られる男子校です。
告知をしていらっしゃったのは国語の澤田先生。英語の秋元先生とともに課外で運営されているこの「ぶらり読書会」は3回目なのだとか。
朝九時に集まったのは、高校生と卒業生合わせて10名。それに先生がた2名。参加者は事前に課題図書を読んで、簡単な感想をあらかじめ澤田先生に送ってあり、それがプリントアウトされて結構厚い資料ができあがっていました。この準備も結構大変かと思います。
夏休み中、しかもとりわけ暑い日にお疲れ様でございます。
さて、読書会ですが、まず3つのテーブルに分かれ、感想を述べて内容について議論します。細かいテーマ設定はなく、まずは感想から始めて、興味の重なるところについて意見を交わしていく。印象的な議論があれば、テーブル備え付けのホワイトボードに記入。この意見交換セッションを40分やったら、ホワイトボードとテーブルの進行役(伝承役)一人が残って、あとのメンバーは入れ替わり。次のセッションでは、そのテーブルで行われた直前の議論を新メンバーに紹介しつつ、新たな議論を進めていきます。これを3セッション行いました。
これは最近よく耳にする「ワールドカフェ形式」というもので、全員の意見をもれなく聞きつつ、あまり狭い議論に入りこまないでいい、といった特長があるので「読書会」には向いている形式といえるでしょう。ただし、全体をまとめるまとめ役(この場合は澤田先生)と、各テーブルに議論を誘導・先導できる数名のサブリーダーが必要です。今回の場合、二人の先生も議論に参加しているので、二つのテーブルはそれぞれの先生が進行役をつとめることになったのですが、もう一つのテーブルでは先輩の生徒さんが進行役を買って出ていたようです。
3回のセッションが終わったら、ざっと感想などを述べ合って終了というのが通常の運びらしいのですが、今回は古典新訳文庫の編集スタッフと翻訳者の黒原さんもいらっしゃるので、第4セッションとして質疑応答の時間を設けて頂きました。
『すばらしい新世界』についての具体的な感想・議論については次の項に譲りますが、高校での読書会について思ったことをまとめます。
そもそも自分で楽しんで読み、読んだ結果を誰かと共有したい、他の人の意見も聞きたいという気持ちがないと、楽しい議論にならないと思います。議論の質だけでなく、会をつつがなく運営・進行するうえでも、強制でなく有志で、というのが結局一番効率がいいでしょう。
参加者を募って、事前に読ませて感想を送らせ、それをまとめてプリント資料をつくり...という作業は結構大変そう。まあ、まとめ役は必ずしも先生でなくてもいいのでしょうが、卒業生までも集められるのは、やっぱり先生がみんなに尊敬されているからでしょう。
ディスカッション中はプリントはほとんど自分の意見の備忘録ほどの役割しか果たさず、持って帰ってゆっくり読むためのもの、といった感じ。文字になった意見より、生の議論を優先し、どんどん発展させていけばいいと思います。しかし、こういう資料があれば、他の人がどんな本と比較しているか、何を参考にしたのか、という洩れがちな情報も知ることができます。ちなみに、「感想」というよりも「レポート」に近い力作もありました。
高校での読書会は、年齢のうえでも読書傾向としても比較的均質な参加者を募ることができるので、穏やかに建設的な議論を進められるように思いました。むろん、他のまったく性質の違う読者層のまったく異質な意見を聞くことにも価値はあるのですが、意見がぶつかり合って議論が平行線をたどるよりは、時間効率的には結局より高度な理解に到達できるのではと思いました。ぜひ、他の学校でも取り入れてほしいです。
次回は実際に『すばらしい新世界』を高校生・大学生がどのように読んだのか、どんな議論が出たのかを、簡単にまとめてみたいと思います。
『すばらしい新世界』を読もう! 筑波大附属駒場高校「ぶらり読書会」見学レポート《読書会の進め方編》