2014.11.28

紀伊國屋書店KINOPPY&光文社古典新訳文庫「小川高義先生と再読する、ヘミングウェイ『老人と海』」10月3日紀伊国屋書店新宿本店で

10月3日、紀伊国屋書店新宿本店9階イベントスペースにて、古典新訳文庫から今年9月に刊行された新訳『老人と海』の「読書会」を開催しました。ゲストにお迎えしたのは、本作の翻訳をされた小川高義先生です。

編集部としても読書会というかたちでのイベントの開催は初めての試みです。紀伊国屋書店さんのご協力で実現した、いつもとは少し趣きの異なるイベントとなりました。

まず前半は編集長の駒井が聞き手をつとめ、『老人と海』の翻訳にまつわる興味深いエピソードを、小川先生に語っていただきました。

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ヘミングウェイは晩年、肉体的・精神的な不調を抱え、思うようにその才能を発揮できなかったといわれます。しかし、『老人と海』は後期の作品のなかでは、特に評価の高い作品です。小川先生も実際に翻訳されて、「抜群に優れた作品」だと感じられたといいます。

『老人と海』が優れている理由、そのひとつは文体にあります。中期のヘミングウェイ作品を特徴づける男性らしさが影をひそめ、繊細で、細部までつくりこまれた文章が際立っています。とりわけ、「語の選び方や、イメージ作りが素晴らしく、作品を通して緊張感が持続している」と小川先生は指摘します。

そこで今回のイベントでは、『老人と海』をより楽しむために、小川先生にあらかじめ『老人と海』の原文から特に印象に残っている箇所を抜粋して頂き、それらを訳文と並置したレジュメを用意しました。

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このレジュメを使って、会場の皆さんと一緒に小川さんの訳文を参照しながら、原文を検討していきました。

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作者のヘミングウェイが『老人と海』で使っている単語は、一見するとそれほど難しいものではありません。どちらかといえば、日常的で平易な語が多いのです。しかし、たとえば、一文の中でカンマがどの位置におかれているか、あるいは、どんな順番で事物が描かれていて、色の描写では何色が最初に登場しているのか。こういった繊細な部分に注目して、英文をじっくり見ていくと、ヘミングウェイの文章がいかに考え抜かれたものかということに気づかされます。練達の翻訳家である小川先生の解説とともに『老人と海』の英文を読み解きながら、翻訳文学を読むことには本当に様々な愉しみ方があることを、改めて感じることができました。また、来場の皆さんが英文を読むのに集中しているのも新鮮な光景でした。

今回の「読書会」を始めたのは、読者の皆さんと、読後の感想や意見を共有できる場所をもちたいという思いがあったからです。初回ということもあり、手探りの部分もありましたが、今後も引き続き、紀伊国屋書店のスタッフのお力もお借りしつつ、読者の皆さんと古典新訳文庫とをつなげることができるような、距離の近いイベントづくりに取り組んでいきたいと思います。

ふだんから海外文学に親しまれている方も、あるいは原文を読み込んでいる凄腕の読者の方も、翻訳文学が苦手という方も、ぜひ一度古典新訳文庫の読書会に参加されてみてはいかがですか。きっと新しい発見がありますよ。(編集部)

老人と海

老人と海

  • ヘミングウェイ/小川高義 訳
  • 定価(本体600円+税)
  • ISBN:75299-6
  • 発売日:2014.9.11
  • 電子書籍あり