ロシア・ポーランド文学者、文芸評論家、翻訳家として、多岐にわたる活動を展開されている沼野充義さんが、多様なゲストと共に現代の「世界文学」について考える連続対談企画「10代から出会う翻訳文学案内<新・世界文学入門>」。これまでに、リービ英雄さん、平野啓一郎さん、亀山郁夫さん、綿矢りささん、多和田葉子さんなど、多数のゲストをお迎えしてきました。これらの対談は光文社刊『世界は文学でできている』『やっぱり世界は文学でできている』の二巻にまとめられ、好評を頂いています(さらに現在、第三巻を鋭意制作中で、来春の刊行予定です)。
シリーズ第4弾の第1回目は、「特別編 いまだから、文学だからこそできること」と題し、特別ゲストとして、作家、詩人、翻訳家として活動する池澤夏樹さんをお迎えしました。これまで日本文学、翻訳文学のフィールドでともに重要な仕事をされてきたお二人の対談ということで、連休の中日にも関わらず、会場の一橋講堂には200名以上の方々が来場されました。
すでにご存じの方も多いと思いますが、池澤夏樹さんは、11月より河出書房よりから刊行されている「日本文学全集」の準備でご多忙のなか駆けつけてくださいました。全集の記念すべき第1巻目は池澤さんのお父上にあたる福永武彦さんも訳した『古事記』。池澤さんご自身で現代語訳を手掛けられました。この全集の目録をみると、『今昔物語』や『宇治拾遺物語』などのいわゆる古典から、近世文学では『雨月物語』、さらには森鴎外や谷崎潤一郎の作品、そして大江健三郎、中上健次といった現代作家も含まれており、読書界の注目を集めています。
今回の対談では、沼野先生が聞き手になり、池澤先生に全集の編集の狙いや、その過程でお考えになったことを中心にお話しいただきました。池澤さんが今回の全集の編集にあたって特に意識された日本文学の特色とは、「非常に長い歴史性を有していること」、そして「戦争や闘いを中心的なテーマに据えてこなかった」という二つのことだったといいます。このふたつの性格があったからこそ、アジアの他の国やヨーロッパとは全く異なる、日本独自の文学が編まれることを可能にした、ということです。沼野先生もこれには頷かれていました。
ご自身でも作家として活動をしている池澤先生が、こうした視点から日本文学史を編み直し、再解釈を試みていることも、大変興味深く感じられます。
これまで連続対談「〈世界文学〉連続講義」の中で、沼野先生は「移動」や「越境」といったことをテーマとして、対話を重ねてこられました。国家や国境というものがかつて持っていた意味が、現代文学においては変容しているのではないか――そんな問いかけが通奏低音のように流れていたと思います。
お二人の話を聞いていて、沼野先生のご活動と今回の池澤さんの全集のご刊行が、方向は違えど、とても深いところで繋がっているという思いを持ちました。
さて、沼野先生の対談シリーズは第二回以降も予定されており、やがては書籍化されます。次回は12月20日(土)、小説家の小川洋子さんをお招きして、「文学のなかの子ども」をテーマに、世界の児童文学をめぐってお話しして頂く予定です。どうぞ今後もご期待ください。(編集部)