光文社翻訳編集部の傭兵編集者Oです。
私はこれまでの仕事人生で翻訳ノンフィクションの本を少なくとも100冊くらいは作ってきたと思うのですが、この『子どもは40000回質問する』ほど、人生の見方が変わるほどに強烈な、素晴らしい本はなかなかないと断言できます!
本書の原題はCurious: The Desire to Know and Why Your Future Depends on It、直訳すると『好奇心──知りたい欲望、そしてなぜ未来はそれにかかっているのか』といったところ。人間の好奇心がどんなもので、どんな働きをしているのか、を豊富な事例を引きながら検証した本です。セールスポイントとしては
「いますぐに、すべての親が読むべき本」かつ「読んだすべての親が青ざめる本」であり、
ビジネスパーソンにとっては、イノベーションや新しいビジネスの創出を促すしくみを考えるうえで、大変参考になる本であり、
また、(詰め込みでもなんでも)「知識」が実際のところ重要である理由を的確にまとめた本
なのであります(ああ、うまくまとめられない......)。編集者としては、このようにいかようにも切り口をつくれる本は、逆に「どんな本」と決めにくくて困るのですが(個人的にはこういう本は包容力があって大好きですが)、まずはこの本を読んだときの効能が一番大きいと思われる子育て世代(あるいはこれから子育てする世代)に向けたタイトルに決定しました。
今回は、とりあえず好奇心と教育の関係についてちょっと紹介したいと思います。 「問いかける力」や「知りたいという欲求」は人間に特有のものですが、一般的に、子どもは2歳から5歳までのあいだに40000回もの質問をするそうです。そしてもちろん、質問が多い=好奇心旺盛な子は、のちのち学校でも良い成績を収め、おしなべて幸せな生活を送るわけですが(むろん「傾向」ですから反証はいくらでもありますよ)、
といいます。すなわち、高所得層の親ほど子どもに多くの質問をし、子どもも多くの質問をするようになる、その結果、高所得層の子のほうが知的好奇心を伸ばしやすい、ということです。また、質問の内容も、低所得層では生活運営上の問いが多いのに対し、経済的に余裕のある層では、「どうして」「どのように」を問う質問が増えるのだそうです。また、そもそも質問の技術が劣っていると、知るべきことや知りたいことを周りから引き出せず、結果として生活に困難を抱えがちになります。このあたりのことは、イギリスやアメリカでの研究によって、シビアな事実として裏付けられていて、まさに経済格差の固定や悪化の根源はここにあるといってよいでしょう。
こんな事実の前では、小さい子を抱える庶民である私などは戦々兢々とするわけですが、本書を読んでこういうことがわかっていれば、子どもの対話の仕方を見直すなど、先手を打つことができそうです。(私がうちで子どもに質問ばかりするようになったのは言うまでもありません)
教育については、他にも数多くの研究を引きながら、子どもを知識習得から遠ざける「進歩的教育」(日本でいう「ゆとり教育」に近い?)をばっさり切り捨てたり、昨今の職業訓練重視のような傾向に警鐘を鳴らしたりしています。子を持つ親や教育者にとってはとてもタメになる一冊です。
ここまで書いてきて言うのもなんですが、それでもこの本、教育の話ばかりでもないんです。大人の仕事においても、好奇心を保ち続けることが超重要なのですが、そのあたりのことはまた別の機会に!