20世紀前半のフランスで、少年時代から非行を繰り返して投獄され、監獄でコクトーに文才を見出された異色の作家ジュネ。今回新訳となった『薔薇の奇跡』は、ジュネ自身の体験を元に監獄での暴力と性、生と死を眩惑的なまでに描ききった驚異的な小説です。
本作は60年前に初めて日本語に翻訳され、以来多くの熱心な読者を獲得してきました。日本におけるジュネのイメージはこれら初期の翻訳によって形成されてきたわけですが、ジュネ研究の第一人者である宇野邦一氏による新訳『薔薇の奇跡』は、その後のジュネの生涯や作品の分析をもふまえた精密な読みによって、まったく新しい作品像、まったく新しい作家像を提示するものとなっています。いまの時代、ジュネは私たちに何を語りかけてくるのでしょうか。
また、抽象性が高く、混沌としたジュネの文章は、歴代の翻訳者たちを悩ませてもきました。そのような翻訳にまつわる工夫や苦労話も含め、ジュネの魅力を縦横に語っていただきます。