『ブデンブローク家の人々』や『魔の山』などの長編小説で知られるトーマス・マンですが、特徴のある中短篇も多く書いています。今回取り上げるのはヴィスコンティの映画でも知られる『ヴェネツィアに死す』と『だまされた女/すげかえられた首』の2冊です。保養先のヴェネツィアで美少年に魅せられる初老の作家(「ヴェネツィアに死す」)。花盛りの時に向かって昇りつめようとする若い女と、老いの訪れの中でもう一度花開こうとする初老の女性(「すげかえられた首」と「だまされた女」)。それぞれの年齢における主人公たちの誘惑と情熱を描いた"エロス3部作"です。登場人物を自在に操るトーマス・マンの物語の構成力と語りのエネルギー。近刊予定の『魔の山』とも通ずるトーマス・マン作品の魅力について、翻訳者の岸さんに語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)