19世紀のフランスの文豪フローベールといえば、まずは長篇『ボヴァリー夫人』あるいは『感情教育』を思い浮かべる方が多いかと思います。しかし、研ぎ澄まされた文体の効果がフルに発揮され、物語に深みと味わいを与えている短篇集『三つの物語』もまた見逃すことのできない作品です。
実際、『三つの物語』こそをフローベールの最高傑作とみなす識者もいるほどで、フランスではとてもポピュラーな古典作品のひとつとなっています。
無学な召使いの人生を、それに寄り添うように描いた「素朴な人」、城主の息子で、血に飢えた狩りの名手ジュリアンの数奇な運命を綴った「聖ジュリアン伝」、サロメの伝説を下敷きに、ユダヤの王宮で繰り広げられる騒動を描く「ヘロディアス」――
時代も味わいも違う三つの短篇を通じて、フローベールは何を試み、何をなしとげているのでしょうか。今回の読書会では、本書を新訳された谷口亜沙子先生をお招きし、『三つの物語』に凝縮されたフローベール文学の魅力について、たっぷりと語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)