「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」。この有名な出だしで始まるのがトルストイの代表作『アンナ・カレーニナ』です。青年将校ヴロンスキーと激しい恋に落ちた美貌の人妻アンナと、その夫カレーニン。そしてこの三角関係と対照的に描かれるのがリョーヴィンとキティ夫妻。19世紀後半のロシアの貴族社会を舞台に、トルストイは愛と理性、虚飾と現実、生と死、そして宗教と社会、真実の愛を求めて苦悩する人間たちの生きざまを、一大恋愛叙事詩に仕上げました。今回は、登場人物の微妙に揺れ動く心理を、端正かつ抑制の利いた訳文で鮮やかに再現した訳者の望月哲男先生に、この作品の魅力について語っていただきます。併せて、孤独死や嫉妬による妻殺しなど、現代的テーマを扱った『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』も取り上げます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)