実在したミュンヒハウゼン男爵(1720–1797)の体験談をまとめた書として知られる『ほら吹き男爵の冒険』。戦地へ、海の中へ、月へ……しかし、そのよく知られた日本語タイトルが示すように、その奇想天外な武勇伝は(おそらく)「ほら話」なのです! 荒唐無稽な話と承知しながら、世界中の人々は200年以上の間、男爵の調子のいい語りに耳を傾け、魅了されてきました。テリー・ギリアム監督の映画『バロン』の原作としても知られています。
男爵の物語は、実はさまざまな形で出版されてきたのですが、一番有名なのは、ドイツの作家ビュルガー(1747–1794)がまとめた版です。これには後年ギュスターヴ・ドレ(1832–1883)の迫力ある挿画が付き、その人気は不動のものとなりました。今回、光文社古典新訳文庫で刊行された新訳は、このビュルガー版にドレの挿画全点を収録したものとなっています。
しかし、このビュルガー版が成立するまでの背景にも、小説のように奇妙ないきさつがあります。男爵の物語はどのように伝承され、どのように変化・発展していったのでしょうか。また、ビュルガー版出版当時まだ存命だった本当のミュンヒハウゼン男爵は、どんな思いだったのでしょうか。
今回の読書会では、新訳を手掛けられた翻訳者・酒寄進一さんをお迎えして、この稀にみる奇書の魅力をたっぷりと語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)