約100年前の1921年にロシアの作家ザミャーチンが完成させた長篇小説『われら』。形骸化した選挙で選ばれる独裁者、監視社会、言論の封殺。1000年後の未来を舞台としているとはいえ、『われら』がロシア革命後の政治状況を痛烈に揶揄していたことは明らかでした。そのため、1922年に建国されたソ連では反体制的であるとして刊行できず、なんとペレストロイカ後の1988年まで発禁にされてきました。まさにソ連時代と運命をともにした20世紀的な作品なのです。
そんな『われら』がいま再び注目を浴びています。
今年2月にウクライナに侵攻したロシア。世界ではウクライナの悲惨な状況が連日報道される一方、ロシア国内では、政府の見解と異なる報道は禁じられ、プロパガンダや官製フェイクニュースばかりが流される事態となっています。インターネットへの接続も規制され、政府の市民への監視の目も厳しくなっています。
この状況においてはディストピア小説、とりわけロシア生まれの『われら』の世界と、現代社会とを引き比べずにはいられないでしょう。また、戦争を実行するうえで、「われら」「彼ら」という区別が欠かせないことは、言うまでもありません。
今回の読書会では、『われら』の新訳を手掛けられた松下隆志さんをお迎えし、100年来のソ連・ロシアの政治を踏まえつつ、その小説の魅力を語って頂きます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)