19世紀末から20世紀前半にかけて活躍したロシアの作家ゴーリキーは、若い頃にロシア西部からウクライナ、黒海沿岸、グルジア(現ジョージア)の一帯を放浪し、時代のはざまで社会の底辺にいた人々の生活を観察しました。そして、それを戯曲『どん底』や、短篇小説に描きました。
「どん底」というと暗い印象を持たれがちですが、近年新訳された『二十六人の男と一人の女』の短篇群を読むと、逆境でも逞しく生きようとする人々の姿、そしてその活力の裏返しともいえる哀愁が、実に生き生きと描かれているのに驚かされます。
こうして人気作家となり、文壇での地位も得たゴーリキーは、ロシア革命以後、当初はボリシェヴィキ政権を批判して亡命を余儀なくされましたが、1920年代後半からはソ連体制の支持に転じて帰国、ソ連を代表する文化人と位置づけられました(かつて「ゴーリキー」という名前の都市があったのを覚えている方も多いでしょう)。しかし、ソ連崩壊後はスターリンとともに批判の対象となり、その権威は失墜してしまいます。しかし、ゴーリキーは忌避され、忘却されていくべき作家なのでしょうか。
今回の読書会では、激しく浮き沈みしたゴーリキーの生涯をたどりつつ、一方で変わることがなかったその作品の価値と魅力について、ロシア文学者の中村唯史さんにたっぷり語って頂きます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)