今回取り上げるのは、原著出版から160年以上経たいまでも読み継がれ、最近ではノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が「化学への興味の原点」として挙げたことでも知られているイギリスの科学者ファラデーの『ロウソクの科学』です。ファラデーははじめ書店に雇われ、併設してあった製本工房の徒弟となり、お客から製本の注文が入った本を片っ端から読破していきました。そして、一冊の科学本と運命の出会いをし、科学者への道を進むことになります。そんな“独学の人”ファラデーが晩年、イギリスの王立研究所で少年少女を相手に行った連続講義録(クリスマス・レクチャー)をまとめたものが本書です。ロウソクの種類や製法、燃える仕組みについて、そして燃えるときに何が生じるのか、大気(わたしたちが吸っている空気)の正体は何か。また、わたしたちが呼吸することとロウソクの燃焼はどう結びつくのか、など、一本のロウソクが燃えるときにおこる物理・化学現象について、さまざまな角度からやさしく解説します。講義録ですから、目の前で行われている実験に目を輝かせている子供たちの姿が目に浮かびます。そう、“実験”は楽しいのです。今回は、この不朽の名著『ロウソクの科学』を題材に、訳者の渡辺政隆さんをお迎えし、科学することの楽しさと奥深さについて語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)