ドストエフスキーといえば『カラマーゾフの兄弟』や『罪と罰』などの5大長篇、あるいは中篇『地下室の手記』を思い浮かべる方が多いでしょう。陰鬱で難解という印象を抱いている人もいるかもしれません。
しかし今回、光文社古典新訳文庫から新訳刊行された『ステパンチコヴォ村とその住人たち』を読んでみると、ちょっと様子が違うことがわかります。家長である「おじ」の母親に取り入り、家庭の暴君と化した居候。そのワガママっぷりといったら、子供の誕生会に嫉妬して、明日は自分の誕生日だと言い張るほどです。かたや人の良すぎるおじはそんな居候を追い出しもせず、相手の機嫌を損ねないようおろおろするばかり。ほかにも、一癖も二癖もある人々が館に集い、ドタバタ喜劇を盛り上げます。
一方、この作品には、ドストエフスキーがシベリア流刑という苦境の中で得たさまざまな見聞やアイデアが詰まっており、のちの5大長篇に連なっていく前期の傑作と見なされています。
今回の読書会では、この作品を新訳した高橋知之さんをお招きし、本書の魅力について、そしてなぜこの本が見過ごされてきたのかといった事情まで、たっぷり語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)