アテナイ出身の軍人であり、文筆家のクセノフォンは、若い頃にソクラテスに出会い、弟子となりました。プラトンとは同世代になります。その彼が師であるソクラテスの日々の姿を自らの見聞に忠実に記した追想録が、今回取り上げる『ソクラテスの思い出』です。
ソクラテスへの告発に対する反論から始まり、その後は徳、友人、教育、リーダーシップなどについて対話し、行動する師の描写を通じて、彼がいかにすばらしい人間で、いかに有益な人物であったかが、熱意をこめて記されています。プラトンの対話篇では、ソクラテスは対話相手を挑発し、問い詰めるような、ちょっとおっかない感じがしますが、ここでは相手に“答え”を教え諭す、教育者としての姿が前面に出ているのが特徴です。
取り上げているテーマはほかに、飲食と性の快楽、友人の値打ちと買い時、老後の仕事、有能な市民の務め、人を惹きつける方法、宴会のマナー、自制心と自制心の欠如などで、さまざまな人生訓を含んでいることから、ソクラテスの「人生論」ともいえる書物だと思います。
今回の読書会では、この作品を新訳した相澤康隆さんをお招きし、プラトン対話篇とはひと味違う本書の魅力について、たっぷり語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)