主人公は二十歳の青年アルカージー。複雑な出生のもと、父母とは無縁に自らの人生を切り開いてきた彼の前にとつぜん現れる実父。かつてその父を愛した女性。そして放浪のすえ戻った戸籍上の父マカール老人ら、魅力ある登場人物たちが複雑な人間関係を織りなし、そのなかで主人公が成長していく姿を描いたのが、今回取り上げる『未成年』です。
本作は、暗示に次ぐ暗示という手法と主人公の「手記」という形式から、長く「失敗作」という烙印を押され続けてきたのですが、本当にそうなのでしょうか。
ロスチャイルドになる理想を抱きつつも、贅沢三昧、ルーレットに耽る放蕩の日々を重ねてしまうアルカージーが、実父ヴェルシーロフとの熱く長い会話、愛の駆け引き、そしてマカール老人の数奇な放浪譚と信仰(カラマーゾフの兄弟のゾシマ長老を連想させます)に触れて辿りついた先は……。
今回の読書会では、ドストエフスキー五大長編の個人全訳を完結させた訳者の亀山さんに、本作の魅力と読みどころについて、また一人称小説という試みの意義についても、たっぷりと語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)