時は江戸時代、元禄直前のこと。主人公の世之介は、7歳で色事に目覚めて腰元をくどき、12歳で風呂屋女(湯女)と寝るような早熟ぶりを発揮し、放蕩のすえに勘当されます。とはいえ、止められないのが色の道。地方を遍歴し、莫大な遺産を手にした後は、名高い遊女たち、男衆との好色生活をつづけ、相手にした女性は3742人に男性が725人! いやはや、その精力たるや恐るべし。そんな稀代のプレイボーイの好色生活を描いた井原西鶴のデビュー作にして大ベストセラーが、今回取り上げる『好色一代男』です。
相手にした数だけみれば、とんでもない色狂いの世之介ですが、超絶のモテ男かと思いきや、なかには失敗談やしみったれた色事もあって笑えます。そしてなにより、世之介は光源氏のパロディであり、『源氏物語』五十四帖を踏まえた54章から構成されていて、数々の先行する古典の文章が随所でもじられているなど、ただの「エロ小説(春本)」にとどまらない、じつに読みどころたっぷりの小説なのです。今回の読書会では、西鶴のクセのある原文の味を活かし、読んで心地よい訳文に仕上げた訳者の中嶋隆さんに、本書の魅力について、理解に欠かせない郭の文化も併せて語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)