アルベール・カミュといえば、『異邦人』『ペスト』といった小説で知られる20世紀フランスの代表的作家です。しかし、まだ第3の小説『転落』をお読みでないとしたら、本当にカミュの凄みを知っているとはいえないでしょう。
中篇といえるほどコンパクトな『転落』の舞台は、アムステルダムの場末のバー。読者は、なれなれしく話しかけてくる元弁護士の話を聞かされるのですが、だんだんと彼の昔話に引き込まれ、結局5日間にわたって彼に会いに行き、脱線の多い彼の一人語りに耳を傾けることになります。男の言っていることとは何なのか、なぜ自分に話しかけてきたのか、本書を閉じるときには、読者はカミュという作家の仕掛けた「語りの罠」にすっかり搦めとられてしまっています。
読者に向けられた一人語りのみで構成される本作は実に現代的で、その筆力には圧倒されるばかりですが、本書の成立背景には、カミュと哲学者サルトルとの因縁もかかわっていました。はたしてそれはどのようなものだったのでしょうか。
今回の読書会では、この作品を新訳した前山悠さんをお招きし、本書の知られざる魅力や解読の愉しみについてたっぷり語っていただきます。
なお『転落』を読み始めるための道案内となる「訳者まえがき」は光文社古典新訳文庫のウェブサイトで全文公開されています。ご一読頂いておくと、よりイベントが楽しめると思います。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)