世界を変えたと言われる本はいくつかありますが、1877年に刊行されたアンナ・シューウェル『黒馬物語』は、まさにその一つと言えるでしょう。馬は昔から、移動、運搬、農耕、狩り、戦争など、人間社会のさまざまな局面で重要な役割を果たしてきました。かつての社会では、そんな馬たちに対して虐待のような扱いもあったようですが、美しい馬の波瀾万丈の半生を馬自身の視点から瑞々しく描いた本書が刊行されるや、馬に負担のかかる馬具が禁止になるなど、人間とともに暮らすこの動物への意識が一気に高まることとなりました。
しかし、本書は「動物愛護」の点で重要であるのみならず、これまで全世界で5000万部も売り上げた大ベストセラー小説でもあります。なぜ『黒馬物語』はこんなにも世界中で愛され、今も読まれ続けるのでしょうか。
今回の読書会では、本作の新訳を手がけ、ご自身も本書が小さいころからの愛読書だったという翻訳者・三辺律子さんをゲストに迎え、本作が歴史に果たした役割や、今も変わらぬ魅力について、たっぷりと語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)