「磨き抜かれたフランス語を流麗な日本語で演じてみせる、この二重の"言葉の魔術"!」浅田彰氏絶賛!

アガタ/声

アガタ/声

デュラス     コクトー    
渡辺守章  訳   
作品

「独白や対話の連なり、それだけがイメージを超えたリアルな世界を作り出す。コクトーとデュラスの魔法のペンだけに可能な、そして仏文学の伝統を血肉化した訳者だけに翻訳可能な、言葉の魔術である」(浅田彰)


物語

お互いに記憶の深層から紡ぎ出した欲望の言葉で、"近親相姦"を語る兄と妹(『アガタ』)。不在の男を相手に、女が電話越しに"別れ話"をひたすら語る(『声』)。男と女、すれ違う言葉と想い......。対話と独白の、抑制された動きと「語り」の濃密さが、鮮烈な印象を与える、一幕もの傑作2篇。


内容
  • 口絵に舞台写真2点
  • アガタ <青山円形劇場 1998年>
  • 作/マルグリット・デュラス 訳・演出/渡辺守章 出演/高橋由美子、渕野直幸
  • 声 <品川六行会ホール 1997年>
  • 作/コクトー 訳・演出/渡辺守章 出演/剣幸
  • 本文
  • 訳註
  • 解題   アガタ/声  渡辺守章
  • 年譜   デュラス/コクトー
  • 上演アーカイヴ   アガタ:天野道映、三浦雅士 声:清水徹、中村雄二郎
  • 訳者あとがき

  • 《解題より》

    −アガタ−
    デュラスの原文でも、台詞は突然、過去のことを今現在起きていることであるかのように語る。それに相手が乗ってくるか、こないか。そうした、記憶の時間軸を往ったり来たりしながら、妹と兄は、思春期の二人の間の、通常の兄妹の愛情とは異質の、つまり性的な倍音を担った感情を、共有すべき追憶として語る。

    −声−
    作者自身が言うように、「対話である独白」----如何にも作品は、電話のコードの先にいるはずの<不在の男>」との対話である。しかもここでは、<不在>は<沈黙>によって表される。一般には録音技術が進んでからの作品なら、受話器の向こうにいる「相手の声」を、それなりに変形して再現することが出来るから、作者も<不在>を<沈黙>で表すという選択は取りにくいかもしれない。その意味で、この<不在=沈黙>という仕掛けは、この戯曲の生命線である。

コクトー年譜
デュラス年譜
マルグリット・デュラス    Marguerite Duras
[ 1914 - 1996 ]   

フランスの小説家・劇作家・映画作家。仏領インドシナのサイゴン近郊生まれ。18歳までヴェトナム、カンボジアで暮らし、帰国後、30歳で小説を発表。その後は晩年まで、映画作家としても意欲的に活動する。69歳で出した自伝的作品『愛人』がベストセラーとなり、ゴンクール賞を受賞。'96年3月死去。その他の作品に『太平洋の防波堤』(小説)、『インディア・ソング』(映画)などがある。

ジャン・コクトー    Jean Cocteau
[ 1889 - 1963 ]   

フランスの詩人・小説家・劇作家・映画作家。パリ近郊の富裕な家に生まれ、早くから社交界に出入りし、文人や芸術家と親交を結ぶ。特にラディゲとの交友はコクトーの芸術活動を刺激し、またその死は阿片中毒に陥るほどの多大な影響を与えた。生涯にわたってジャンルの枠を超えた活動を繰り広げながら、その根源は常に「詩」にあった。

[訳者] 渡辺守章    Watanabe Moriaki
1933年生まれ。京都造形芸術大学教授。東京大学名誉教授。演出家。フランス文学・表象文化論を専攻。2021年4月死去。著書に『ポール・クローデル----劇的想像力の世界』『演劇とは何か』『越境する伝統』など。訳書に『フェードル アンドロマック』、『ブリタニキュス ベレニス』(ともにラシーヌ)、『繻子の靴』(クローデル)、『女中たち バルコン』(ジュネ)、『シラノ・ド・ベルジュラック』(ロスタン)、『アガタ/声』(デュラス、コクトー)、『マラルメ詩集』(マラルメ)、『ロレンザッチョ』(ミュッセ)など。