母親や兄姉たちに心ない仕打ちを受け、愛情に飢えながらも、しなやかに成長していく少年の姿を描いたフランス文学の名作『にんじん』。光文社古典新訳文庫では、中条省平さんの翻訳で2017年4月に刊行しています。
この夏、大竹しのぶさん主演のミュージカル『にんじん』が、東京・新橋演舞場(8月)、大阪松竹座(9月)で公演となります。6月21日、その製作発表記者会見が東京・渋谷で開かれました。
たくさん集まったメディア関係者のうち何人が興味を持ったかわかりませんが、記者会見が開かれたのはセルリアンタワー東急ホテルの「ルナール」という部屋でした。欧文の綴りは違うので、特に作家ルナールへのオマージュでつくった部屋ではないのでしょうが、主催者のセンスが光ります。
実は大竹さんは、38年前の22歳のときにこのミュージカル『にんじん』で初めて主役を務められ、今年還暦(!)を機にもう一度演じてみたいと、今回の再演となったそうです。38年前の舞台は子どもも見られる「音楽劇」で(ミュージカルになったのはこの時が世界初なのだとか)、子どもたちが劇を見たあとの嬉しそうな顔が忘れられない、と大竹さんは語っていらっしゃいました(今回も、4歳から小学生までの《子ども料金》が設定されています)。チラシのメインビジュアルとなっている少年の衣装についてはご自身は恥ずかしさもおありのようですが、少年に見えちゃうのはさすが名優。また38年前と同じ歌を同じキーで歌うというのも凄いです。
記者会見には、にんじんの兄フェリックス役の中山優馬さん、母親役のキムラ緑子さん、父親ルピック氏役の宇梶剛士さんも登場され、それぞれの役(どなたも、大竹さん演じる「にんじん」よりも年上の役)について語っていらっしゃいました。
さて、このミュージカル『にんじん』の脚本の元になっているのは、実はかつて講談社文庫で出ていた大久保洋さん訳『にんじん』なのですが、これが絶版ということもあり、今回一番新しい訳ということで、光文社古典新訳文庫で宣伝協力させてもらうことになりました。7月頭には、ミュージカルのオビを巻いた『にんじん』が書店店頭に並ぶことになります。
ミュージカルは子どもも楽しめるものになるはずですが、原作は元々子ども向けの本ではないため、もう少し残酷なことも出てきます。とはいえ、会見の内容を聞いていると、そんなことは重々承知のうえで、あえて子どもの心にも大人の心にも響く作品にしたいという大竹さんと製作サイドの意気込みが伝わってくるようでした。
ミュージカルを観て感動した子どもたちには、少し大きくなってぜひ原作を読んでみてほしいです。また、原作を読んだ大人としては、大竹さんがどのように少年にんじんの気持ちを歌い上げるのか楽しみなのはもちろん、ミュージカルか小説かという形態を超えた物語の「強さ」に触れられるのではないかと期待しています。まだ原作を読んでいない大人については......まずは古典新訳文庫でお読みください!