「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世中(よのなか)にある人と栖(すみか)と、又かくのごとし」
この冒頭部分が有名な『方丈記』は、『枕草子』『徒然草』とあわせて日本三大随筆に数えられている古典です。京都郊外の日野の山に設えた一丈四方(五畳半!)の草庵で、作者の鴨長明は都で起きた飢饉や大火に思いを寄せ、生のはかなさを綴りました。いわゆる出世争いから外れ、本来の禰宜としての地位を全うするには至らなかった鴨長明は、優れた歌人であり、また琵琶の名手でもありました。和歌への情熱、日々の散策や山歩き、それにみずからの運のなさをしみじみと思うなど、何ものにも縛られない日々を送る鴨長明。今回の読書会では、これまででいちばん身近に感じられる鴨長明像を浮かび上がらせた蜂飼耳さんを迎えて、『方丈記』のもつさまざまな魅力について語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)